十字軍
2007年 04月 27日
「アラブが見た十字軍」(ちくま学芸文庫)読了。
文字通りアラブの目から見た欧州勢の聖地回復運動で、訳者が解説で書くように、おそらく「わが国には類書がない」。
この時代に興味ある人なら手にとって損はないでしょう。歴史書ではなく、より読み物的な要素の多い本です。とにかく面白い。
冒頭しばらく、有望な人がたっても、たちまち暗殺され、あるいは戦場で斃れ、アラブはまとまりがありません。一方の十字軍は悪逆の限りを尽くす。人食いまで横行する。全身を鉄板で覆った金髪長身の野蛮人が、焚き火に串刺しの子供をかざして食う。強烈なイメージではありませんか。それもアラブの証言ではない。著者はこの箇所では特に「フランス年代記作家の記述」と断って引用します。
「わが軍は殺したトルコ人やサラセン人ばかりでなく、犬を食べることも憚らなかった」
やがてサラディンの登場で事態は急展開を迎えます。本書の山場の一つです。サラディンの伝えられる人柄で最も心うたれたのは以下の一文。
「スルタン(サラディン)が没した時、国庫にはティールの金塊一個と銀貨四十七ディルハムしかなかった」
サラディンは質素を好み、富を貪りませんでした。そして敵も味方も粗略には扱わなかったとか。アラブ世界では無欲と謙虚が最高の武器になるようです。(現代の中東には・・・汗)
記述は少ないですが、次に登場する英雄は地中海的国際人、シチリアのフリードリヒ二世です。アラブとビザンチンと、そして西欧が混じりあったこの君主は、アラブ的な方法で聖地を回復します。(詳しくは本書か歴史書で)
面白かったのはアラブが見たフリードリヒ二世の横顔。
「赤毛で頭は禿げ、近視であり、もし奴隷だったらディルハム銀貨で二百枚の価値もないだろう」(ダマスカスの年代記作家シブト・イブン・アル=ジャウジ)
最終的にアラブ世界は十字軍運動で奪われた沿岸地を回復しますが、以後は没落に向かいます。代わって文化の華を咲かせ、雄大な文明の構築に成功したのは欧州でした。著者は最後のマトメで軽くその点に触れて筆をおきます。
P.S.
怒涛の勢いでマイケル・ムーアの「華氏911」を再度鑑賞。
欝々とした気分で本日終了。
by rotarotajp
| 2007-04-27 21:03
| 私事