日々是勉学


by rotarotajp
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戦争における「人殺し」の心理学(前半部)

 【戦争における「人殺し」の心理学】(ちくま学芸文庫)前半部読了。本の当り月らしく、これも本当に面白い。大満足である。

 原題は[The Psychological Cost of Learning to kill in War and Society]
 裏表紙にウェストポイントの陸軍・空軍士官学校で教科書として使われているとあるが、敬遠するほどのものでは決してない。若い候補生向けであるせいか、全体に専門書臭くなく、(いまのところ)読み物としての品質を充分備えている。

 何といっても目からウロコだったのは、兵士の心理を研究する学問が成立し、応用されているという事実そのもの。機械の様に、あるいはパブロフ博士の犬のように、心を調整(プログラミング)され、戦場に送り込まれる無名の兵士たちの、何ともいえない無残さに眉をひそめた。

 巻頭で紹介されるのは、兵士たちのギリギリの殺人忌避行動。
 第二次世界大戦中、前線にいた兵士の約八割は、仲間の給弾を助けたり、負傷者を後方へ移送したり、(もちろん自分の身を危険に晒しながら)敵を殺す以外のことは何でもやったにせよ「実際に銃を構えて前方の敵を撃つ」=「殺人」には踏み込めなかったという。
 本書の特徴は色々な実験や調査の結果を、あるいは戦訓(兵士の証言)をふんだんに取り入れているところで、フロイトやユングの本にはないわかり易さと、直裁さが嬉しい。

 チャーチルは著書の中で「戦争から輝かしいものが消えうせた」と嘆いたが、英雄たちの時代にもそんなものはなかったのかもしれない。
「おまえは人殺しだと自分で自分を責めた~犯罪者になったような気分だった」ナポレオン時代のイギリス兵の証言。

 第一次世界大戦中、ドイツ軍に包囲された第七七師団のある大隊は、食糧も水も弾もない状態で何日も戦い続けた。生存者は大隊指揮官ホイットルシー少佐の不屈の精神力のおかげだと口をそろえて証言。「彼は降伏を拒否し、次第に減っていく生存者を絶えず激励し」結果として少佐は名誉勲章を授与された。
 著者は続ける。
「ここまでは良く知られた話だ。だが、戦後まもなくホイットルシーが自殺して果てたことを知る者は少ない」
 著者は様々な調査結果や証言をもとに、戦場で兵士を襲う恐怖の本質は兵士自身の死や負傷ではないと結論づける。それは自分の暴力で人が死ぬことであり、自分のせいで戦友が死に、あるいは傷つくことなのであると。著者は少佐の自裁をそうした文脈で捉える。

 こうした本質を備える(もっともこれは全体の九八%のことで、残り二%には当てはまらないらしい)人間を、軍隊は殺人者、あるいは殺人の命令者として「調整」しなくてはならない。おそらく一般の兵士は、自分がどのような原理に基づいて訓練されたかを知るまい。
 気味の悪い本だが、面白いのは確かだ。
 軍隊の仕組みに興味があるなら、手にとって損はない。

 さて、後半部やいかん。
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by rotarotajp | 2007-04-28 19:43 | 私事