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日々是勉学


by rotarotajp
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シーン#1

 忘れられない景色があります。
 景色というよりはシーンかな。
 最初の一個は、たぶん最初の記憶で、薄暗い蛍光灯の光の中に浮かび上がる駅か空港のホール。
 二個目は長い坂です。坂の先に路面電車の駅があって、道の右側にパン屋さんがある。
 三個目は少し飛んで、たぶん夏祭りの夜ですね。提灯の淡い光があって、赤い着物を着たおねえさんが二人、石鹸の香りを漂わせて通り過ぎるんです。まだ色気の出る前だから、何かおっとりとした、夢のような景色でした。
 まあ、他にも色々とあるのですが、不思議と物心がついてからは、自分がそこにいるというより、そこにいる自分をもう一人の自分が見ているような、テレビの中の自分を見ているような、ちょっともどかしいシーンが多くなってきます。きっと「客観」が生まれてしまったのですね。
 ある場所の、従業員用の休憩室で、汚い布団が重ねてあってね、並んだロッカーが鈍色に光って、あの景色は忘れないなぁ。
 一番青春らしい青春の景色です。あそこでは変な人にも沢山出会いましたし、怖い人に絡まれたりもしました。あと、煙草に火をつけてあげるとキャッキャと喜ぶオバサンとかね。
 裏手の従業員口から両手にゴミ袋をかかえて外に出ると、いつの間にか足首が埋まるほど雪が降っていて、日のあたらない薄汚いビルの合間のようなそこが真っ白になっていて、吐く息が光って見えました。
 ずっと後になって、面倒な夜勤でビルの屋上に出たら、意外なほどそこの夜景がきれいに見えたこともありました。
 思いもかけない瞬間に「客観」の隙をついて、ホントに美しい「シーン」が現れる。これがあるから人間やめられない。
 上の方でまたたく赤い警告灯が「あれ一個、すげぇ高いそうだよ。何十万円もするんだってさ」と、一緒にいた人が教えてくれました。そりゃそうです。美しいものは高いに決まってます。
 まだ泳げない頃のプール。階段沿いにまっすぐ水の中を歩きました。上を見上げるとキラキラしていて。あんなにきれいなものもなかったなぁ。外にいた母が駆け込んできて、一緒にプールにいた幼い姉が「なんで目を離すの!」と、気の毒に怒られていました。
 いま観光地にいって、なにやら素晴らしいといわれる景色を見ても、最初から予想しているから、面白くもないし、第一美しくもない。
 何でこんなところに来たんだろうと自問自答を始めて、欝になります。みんなは違うのかなぁ?
 修行のように旅行ばかり行く知人がいますが、ボクは心ひそかに「聖杯探索者」と名付けています。
by rotarotajp | 2009-03-12 19:16 | 私事