欧州観光の心得ノ2
2005年 07月 10日
Memento mori、メメント・モリ。普通は「死を想え」と訳されるだろう。二つの意味が考えられる。一つは今の生を楽しめ、享楽せよということ。一つは死は必ず訪れる、現世の楽しみは虚しい、ということ。改めて言われなくても死はいつもそこにある。いつかは全ての人が同じ場所に集まる。早いか遅いか、ただそれだけの事だ。誰もがそれを知っている。知ってはいるが、それと、それを体験するという事はまったく別の問題だ。ペスト隆盛の時代、その余りの勢威に、西欧では死が奇妙な舞踊さえ始めた(La Danse Macabre)。死は狂騒的になる。骸骨が踊り、死の変相図が描かれる。あがき、もがき、血涙を搾り出し、それでも死は容赦しない。これほど理不尽な暴力、これほどの不公平、これほどの無慈悲があるだろうか?打ちのめされればされるほど、人は雲間の暁光、救世主イエスを、砂漠に喘ぐ人が水の一滴を仰拝するように、求め、すがった。天空に届くような巨大な大伽藍はそうした中でつくられた。聖職者は信仰の果実を窃取して肥え太り、支配力を強めた。欧州の歴史は、こうした「かさぶた」が幾重にも重なって出来ている。街の石畳には血が滲み、豊かな土壌には白骨が埋まっている。欧州を観光するということは、一面、死を観光するのと同義なのだ。チャンチャン
by rotarotajp
| 2005-07-10 17:51
| バロック