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日々是勉学


by rotarotajp
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劇画ヒットラー

 水木しげる著「劇画ヒットラー」についてであります。結論からいうなら、Rotaにはとても面白い本でありました。本日の帰宅時に本屋さんで見かけたなら、ぜひ購入してやってください。ちくま文庫、520円+税。とってもリーズナブルなお値段です。ヒトラーについてのドキュメンタリー大作を何巻か読むのと、その吸収のしやすさを考えるなら、同等か、それ以上の価値があるとRotaは思います。
 もちろん劇画ならではの省略はあるようです。色々とある中で、例えばゲリの自殺のシーンにおいて、同書においてヒトラーはのほほんと歩いているところを呼び止められる、という描写となっていますが、実際のヒトラーはこの時車に乗って移動中で、後方から迫る使者の車を暗殺者と考えて臨戦態勢にあったといわれています。有名ではあっても本筋とは関係のないエピソードなので、おそらく作者は流れを澱ませない為に単純化したのでありましょう。
 これ自体、劇画というスタイルの中において欠点と言えるかは微妙な部分なのですが、逆に明らかな美点は多々みられます。まず物語の開始時期をヒトラーの青年時代においた事。ヒトラーを表現しようと試みる人は、よく知られた全体主義調の雰囲気の為に、1933年~1934年頃からストーリーを描く誘惑にかられると思うのですが、しかし、実はヒトラーのエピソードで興味深いものは、彼の「闘争」の時期に多く、政権奪取後には少なく、あるいは希薄になるのです。(とRotaは思っています)その点、同書は半分以上を政権奪取以前の描写にあてています。その時点で大いに好感が持てますし、ヒットラーモノに馴染みがない人には初見の情報も多かろうと思います。
 あとは、個人的にニヤリとしたのは国防軍の将校の描き方で、たった少しのコマに偽善的な雰囲気が良く出ています。(意識的というより、こりゃ画風なのかなぁ?
 なにやら世の小説などでは国防軍とナチスを区別して、国防軍を罪なき軍隊と祭り上げる風潮がありますが(戦後ドイツの歩みと同期するものです。ナチスと国家を分離させる理屈)実をいえば「カイザーが去って将校団が残った」といわれるほど、軍は旧帝国の貴族趣味を残した特権階級の組織で、当然保守の気風が強く、実際にはドイツ・ナショナリズムの最大の担い手であったのではないかとRotaは思っています。ので、ホントはもっともっと辛口にコケ下ろして欲しかった面も少々・・・なきにしもあらずということもなし。
 元々Rotaは水木しげる氏のファンではありますが「劇画ヒットラー」は数ある同氏の傑作の中でも(ちょっと毛色は変わっていますが)白眉と思われますので、未読の方には絶対のお薦めでありんす。
 手塚治虫氏の「アドルフに告ぐ」がフランス料理なら、「劇画ヒットラー」は刺身。両者を比較して云々する向きもあるようですが、共に口にして楽しむのが食通というものでありませう。
 去年の夏ごろに一度コンビニ漫画として出版されているようなので、あるいはBOOKOFFで探すのが吉か?
by rotarotajp | 2006-06-14 12:46 | 私事